生体内のミネラルは、大まかには二種類ある。
マクロミネラルとマイクロミネラルだ。
前者は体内に比較的大量に存在する。例としては、カルシウム、ナトリウム、マグネシウム、カリウムなどがある。
後者は少量存在する。その重要性が「マイクロ」というわけではない。それどころか、欠乏すれば様々な不調を引き起こす。
例としては、鉄、亜鉛、セレン、銅、ケイ素などがある。

ミネラルの相互作用として、マグネシウムとカルシウムの関係がよく知られている。
たとえば筋肉において、カルシウムは収縮を、マグネシウムは弛緩を引き起こす。
収縮と弛緩。
真逆の作用を引き起こすという意味で、両者は拮抗関係にあるといえる。
しかし筋肉を動かす際には、収縮しっぱなし、あるいは弛緩しっぱなし、ではダメで、どちらも必要な作用である。
そういう意味では、「拮抗」というよりは「共同」というほうが適切かもしれない。

カルシウムは電源オンのボタンだとすると、マグネシウムはオフのボタンだ。
マグネシウムが欠乏すると、体は電源をオフにできなくなる。つまり、電源オンのままで、延々休まらない。
「夜、なかなか寝付けません。やっと寝れても、途中で何度か目が覚めます」
「寝てるときにこむらがえりがよく起こります」
「頭にモヤがかかっているようです。集中力とか記憶力が落ちました」
電源の落とし方がわからなくなっているんだ。
こういう患者を見れば、まずマグネシウム欠乏を疑う。

休めなくなると、体はどうなるか?
たとえば、体内の毒物をうまくデトックスできなくなる。
(ちなみに「デトックス」などという医学用語はない。「そんな不正確な表現を使うな」とオーベンに怒られる言葉だ。でも便利な言葉だから、僕は使うけどね)
蓄積した疲労物質がウォッシュアウトされず、朝起きた直後から体が疲れている、といったことが起こる。

カルシウムがエネルギー(ATP)を消費するミネラルだとすると、マグネシウムはエネルギーを作り出すミネラルだ。
ミトコンドリアがエネルギーを産生するにあたって、マグネシウムはそのプロセスで不可欠な栄養素のひとつだ。
つまり、マグネシウム欠乏は、エネルギー欠乏を引き起こす。
他にも、骨や歯の形成、血糖調整、インスリン感受性、アルコール代謝にも関わっている。

体内のマグネシウムが十分か不足しているかは、採血ではわからない。
なぜか?
マグネシウムの体内分布を考えればいい。骨に50%、筋肉に25%、残りが軟部組織に存在する。血中に存在するのはたったの1%だけ。
不足すればすぐに骨や筋肉から供給されるから、血中のマグネシウムを測定しても臨床的意義はあまりない。
逆に、マグネシウムの生体利用率が低下している場合、血中マグネシウムは正常なのに、骨や筋肉にマグネシウムがうまく取り込まれない可能性もある。
マグネシウムは、筋肉に入ってこそ、細胞の中に入ってこそ、弛緩作用が発揮される。

「症状からみてマグネシウム欠乏だと思い、マグネシウムのサプリを飲み始めました。でも正直、いまいち効果を実感していません」という人がいる。
こういう人は、恐らくマグネシウムの生体利用率が低下している。せっかく摂ったマグネシウムが、単に血管のなかを流れているだけで、細胞の中に入っていない。
どうすればいいか。
どうすれば、マグネシウムの生体利用率を高め、マグネシウムにしっかり仕事をさせることができるのか。

ケイ素、がポイントである。
ケイ素には、ミネラルの利用効率を高める作用がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/7688524
論文中、「ケイ素を経口投与したマウスでは、血中マグネシウム濃度が低下、カルシウム濃度が上昇した。一方、組織中のカルシウム濃度が低下し、マグネシウム濃度が上昇した」とある。
どういうことかわかりますか?
組織のなかにしっかりマグネシウムを送り込むことができた、ということだ。
同時に、組織からカルシウムの沈着を抜くことができた、ということだ。たとえば動脈からカルシウムが抜けるということは、動脈硬化の改善そのものだ。
さらに、ケイ素はアルミをキレートする作用があるし、ケイ素自身、骨に入って骨質を強化する作用もある。

マグネシウム代謝には、セレンも重要という指摘がある。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/8054261
なぜか流産してしまう女性が対象の研究。4か月間経口でマグネシウム(1日600㎎)を摂ってもらったが、赤血球中のマグネシウム濃度(RBC-Mg)が全然正常化しない。
なぜだろう、ということで、赤血球中のグルタチオン・ペルオキシダーゼ活性(RBC-GSH-Px)を調べたところ、対照群と比べ有意に低かった。
そこでセレン(セレノメチオニン200μg)とマグネシウムを2か月間同時に投与すると、全参加者でRBC-MgとRBC-GSH-Pxが正常化した。
これらの参加者は8か月以内に全員妊娠し、正常な赤ちゃんを産んだ。

メガビタミン療法はあり得ても、メガミネラル療法はあり得ない。
鉄や亜鉛などは、過剰摂取の害が報告されているから、漫然と長期摂取してはいけない。
しかしマグネシウムやケイ素に関しては、その点はほとんど心配ない。
マグネシウムを摂りすぎてもせいぜい下痢をするぐらいで、この副作用はむしろ便秘の人にとってはありがたい主作用だ。
Hofferの本を読んでいると、マグネシウムには多くのページが割かれているが、ケイ素については言及さえしていない。
そういうこともあって、僕も含めHofferで栄養療法を学んだ人は、ケイ素の重要性を見落としていると思う。
自戒の意味も込めて、ケイ素の重要性は声を大にして言いたいんだな。