カフェインは病院でも普通に処方されている、れっきとした薬だ。
眠気、倦怠感、頭痛(カフェイン禁断性頭痛など)に対して適用がある。
カフェインが気分、集中力、単純計算のパフォーマンスを高めることには複数の研究があって、エビデンスとしては固い。
たとえば以下のような研究。
https://link.springer.com/article/10.1007/BF00210835
『低用量カフェインの作業能率および気分に対する効果』
要約
カフェインは気分やパフォーマンスに対して刺激物質様の効果があると考えられている。しかし、食品やOTC薬品(ドラッグストアで誰でも買えるような薬)に含まれている程度の低用量カフェインの処方によって、どのような急性の影響が出るかを調べた研究はほとんどない。
そこで我々は、健康な20人の男性ボランティアに対して、様々な用量のカフェイン(32mg、64mg、128mg、256mg)を単回投与し、血中カフェイン濃度、様々なパフォーマンス項目、自己報告式の気分スコアを評価した。
結果、たったの32mgで(これはコーラ1杯に含まれているカフェインの量であり、コーヒー1杯やOTC薬品に含まれているカフェイン量よりも少ない。また、この量による血中カフェイン濃度の上昇は1μg/mlにも満たない)、聴覚および視覚の反応時間が有意に高まった。
他の投与量でも、これらのテスト項目のパフォーマンスが有意に高まった。
不安感の増大や運動パフォーマンスの低下など、行動面への悪影響は、最大用量の投与でも観察されなかった。

最近出たレビューで、カフェインがサッカー選手のパフォーマンスにどのような影響を及ぼすかを調べたものがある。
https://res.mdpi.com/nutrients/nutrients-11-00440/article_deploy/nutrients-11-00440.pdf?filename=&attachment=1
『サッカー選手におけるカフェイン摂取と身体パフォーマンス、筋肉のダメージおよび疲労の知覚:系統的レビュー』
サッカーは複雑なチームスポーツであり、この競技における成功は、身体能力、選手の技術、チーム戦術など、様々な要因が左右している。過去数年、カフェインの摂取によってサッカーの身体パフォーマンスにどのような影響が出るかを調べた研究が複数あったが、これらの研究結果は適切にレビューされていない。このレビューの主な目的は、カフェインの適量摂取によるサッカーの身体パフォーマンスへの影響を適切に評価することである。
2007年1月から2018年11月までのMedline/PubMedおよびWeb of Scienceのデータベースにおける『系統的レビューとメタ分析のための選好報告項目』(PRISMA)のガイドラインに従って、文献検索を行なった。検索した文献には、カフェインの無作為化比較試験(カフェイン含有の飲料あるいは錠剤)が含まれている。サッカー選手のレベル、性別、年齢による調整は行なっていない。
このレビューは17本の論文を対象としており、このうち12本はカフェインのサッカー特有の能力に対する影響を、5本はカフェインの筋肉損傷に対する影響を、調査したものである。ジャンプ力、頻回ダッシュ能力、試合中の走行距離で、身体能力が高まっていた、というのがこのレビューの結論である。
カフェインによって筋肉の損傷を示す血中マーカーが増加することを見出した論文が1本あった。カフェインによってサッカー後の疲労感が減少したとする報告はなかった。結論として、サッカーをする5〜60分前のカフェイン単回適量投与は、サッカーの身体パフォーマンスに関連したある種の能力を高める可能性がある。しかし、筋肉損傷を示すマーカーの増加を引き起こす可能性は低いと思われる。

カフェインがどのようにして薬理作用を発揮しているのか。
この機序にアデノシン(催疲労物質・睡眠物質)の抑制が関与しているのではないか、という仮説を提唱しているのが以下の論文だ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12399249
『疲労に対するカフェインとアデノシンの影響』
カフェインは運動中の疲労を遅らせるが、この機序は不明である。
本研究は、カフェインの抗疲労効果は中枢神経系(CNS)のアデノシン受容体の阻害によるのではないか、という仮説を検証するものである。
まず、自発的歩行活動に対するカフェインおよびアデノシンA1/A2受容体作動薬5Nエチルカルボキサミドアデノシン(NECA)の効果を確認した。自発的活動あるいはトレッドミル・ランニングの30分前に、ラットにカフェイン、NECA、あるいはその両方(カフェインとNECA)を投与した。
結果、カフェインは自発的活動の増加、NECAは自発的活動の減少と関係していたが、カフェインとNECAの同時投与では、NECAにより誘導される活動減少が見られなかった。またカフェインは、コントロール群に比べて、疲れるまでの走行時間が60%伸び、NECAは疲れるまでの走行時間が68%短くなった。
この結果は、カフェインによるCNSを通じた疲労遅延作用の少なくとも一部には、アデノシン受容体の阻害が関与していることを示している。

高校で生物の授業をとった人は、生物はエネルギーの媒介物としてATP(アデノシン三リン酸)を利用している、と習っただろう。
ATPは暖炉にくべる薪で、アデノシンはその燃えカスのようなものだ。
上記の実験では、ラットにアデノシンを投与すると自発的運動が減少していたが、カフェインの同時投与でそれがキャンセルされた。
アデノシンは身体・精神活動の燃えカスで、その投与で自発的運動が減少するのは理にかなっている。疲れてグッタリするのだろう。そこにカフェインを入れると元気になるというのは、カフェインがアデノシンの作用に干渉するからだ。
コーヒーを飲みすぎると夜寝られなくなるのは多くの人が経験済みのことだが、その機序の一端が解明された格好だ。
休憩時間にコーヒーを1杯飲んで、さて、午後の仕事も頑張ろう、という人は多いと思う。ただ、上記の研究からわかるように、コーヒー(カフェイン)によって疲労物質(アデノシン)が消滅したわけではない。アデノシンはしっかり残っていて、カフェインはそれが受容体にくっつくのを邪魔しているだけのことだ。
カフェインはあくまで適量摂取にとどめて、夜にはしっかり休息することが大事だ。