アルコール依存症の人というのは、世間の人が想像している以上に多い。
厚労省の統計によると、ICD-10診断基準によるアルコール依存症者は109万人、アルコール依存症予備軍(AUDIT15点以上)が294万人、多量飲酒者(飲酒する日には純アルコール60g以上)が980万人、リスクの高い飲酒者(1日平均男性で40g以上、女性で20g以上)が1039万人である。

つまり、「診断上、明らかにアルコール依存症ですよ」と言われた人は、ざっと100人に1人。
アルコール依存症になるリスクのある人というのは、2000万人以上、おおよそ6人に1人もいるということだ。

6人に1人ってすごいと思いませんか。家族や親戚の顔を思い浮かべてください。6人ぐらいすぐ思い浮かぶでしょ。そのうち誰かがアルコール依存症になるかも、ってことです。
世間一般の人は「精神的に弱い人とか自制心のない人がなる病気だ」と思っているかもしれないけど、アルコール依存症は決して特殊な病気じゃない。
お酒は全くダメで、一滴も飲まない、という人はさすがにならないけど、そうでもない限り、基本的には僕らの誰しもがなりうる可能性のある病気だ、ということは認識しておくべきだろう。

個人的には、アルコール依存症に対して精神療法やAA(断酒会)はあまり意味がないと思っている。意味が全くない、とは言わない。特に断酒会の場で、自分と同じような症状で苦しんでいる人の言葉は、本人にとって重く響くことだろう。
しかし、「お酒飲んじゃダメですよ」「うん、わかった。頑張ります」的な、ただの言葉で治るほどこの病気は甘くない。
ダメと分かっていても飲んでしまう。仕事を失い、家族がバラバラになり、金銭的にも破滅する、そういうことが分かっていてなおやめられない。
それがこの病気の恐ろしいところなんだ。
酒をやめるためには、意思の力はもちろん要るが、それだけでは治らない。
一時的に我慢できたとしても、いつかスリップ(飲酒再開)するだろう。

アルコール依存症は精神疾患ではなく、内科的疾患だ。(というか、すべての精神疾患は内科的疾患だ。)
だから、AAに通い続けてどんなに内省を深めたところで、栄養状態の改善に取り組まなければ、根本的な回復は見込めない。
「アルコール依存症というのは、ペラグラ(ビタミンB3欠乏症)のことだ」と指摘している論文もある。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24627570)
アルコール依存症にはナイアシン(ビタミンB3)が著効する。これは、プラセボを使った比較試験がたくさんあって、科学的なエビデンスは十分に確立している。

ホッファー先生によると、ナイアシンのサプリがアルコール依存症に有効であることは、患者の臨床経過を見ていれば明らかだった。
しかし、「私がナイアシンを投与した患者は皆、アルコール依存症から見事に回復した」とどれだけ主張したところで、反対派は納得しない。「そんなものはただの症例報告であって、科学ではない」というわけだ。
だから、反対派を黙らせるには、実薬とプラセボを使った比較試験というのがどうしても必要になる。
「実薬(ナイアシン)投与群の何人中何人が回復し、プラセボ投与群の何人中何人が回復した。だから、明らかに実薬が有効でしょ」という具合に証明しないといけない。
ここで、ホッファー先生、頭を抱えた。なぜって、ナイアシンには、ホットフラッシュの副作用があるから。
ナイアシンを初めて飲んだ患者の多くは、顔や首もとがポッと赤くなってしまう。これはナイアシンが末梢でヒスタミンの遊離を促し、血管が拡張することによるもので、実害は特にないんだけど、初めてこれを経験した人は事前にこの副作用が起こり得ることを知らないと、びっくりする。半減期は90分くらいだから、数時間もたてば消えるし、初めて使った時が一番強く出て、その後は段々出なくなる。
そういうわけだから、ナイアシンの有効性を示すためにプラセボ対照二重盲検を行いたいんだけど、実薬(ナイアシン)群にはホットフラッシュの副作用が出るから、患者にも観察者にも、誰がどっちを投与されているのかがばれてしまう。これでは対照試験の意味がない。
悩んでいたホッファー先生のもとに、新しいニュースが入ってきた。ナイアシンアミドのサプリメントが大量生産できるようになった、という知らせだ。
ナイアシンアミドは、ナイアシンの副作用であるホットフラッシュが出ないように修飾されている。これなら二重盲検が可能だということで、ようやく実薬群の有効性を確認できた。

ナイアシンアミドは、ナイアシンの唯一の副作用であるホットフラッシュが出ないのがメリットだけど、ナイアシンより全般的に優れているかというと、実はそうではない。(そうでなければ、ナイアシンのサプリは市場から淘汰され、かわりにナイアシンアミド一色になっているだろう。)
たとえばナイアシンにはコレステロールを適正化する作用があるが、この作用はナイアシンアミドにはない。
コレステロールとか中性脂肪が高い患者には、副作用の多いスタチンよりも、断然ナイアシンがおすすめだ。ナイアシンには副作用どころか、メリットしかない、と言ってもいいぐらいだからね。(ホッファー先生は、ナイアシンの副作用は「長生きしてしまうところ」と言っている。)
それに、ナイアシンのすごいところは、コレステロールが病的に低い人に対しては、コレステロールをむしろ上昇させるところだ。スタチンみたいに、下げる一方、というんじゃないんだ。だから、健康のためにナイアシンをとり続けたとしても、コレステロールが下がりすぎて困る、ということはない。適正値に落ち着くはずだ。

「アルコール依存症に効くことが明らか?じゃあ、何で私は、ナイアシンのことを他の先生から聞いたことがないの?」というのは、当然の疑問だろう。
1973年、APA(アメリカ精神医学会)は、ホッファーの提出したデータを棄却し、精神疾患(アルコール依存症、統合失調症含め)に対するナイアシンによる治療法は承認しない、と表明した。むしろ肝臓への毒性がある、と。
ホッファーは当然反論したが、まともに取り合ってもらえなかった。

有効性を示すエビデンスは無数にある。(google scholarで「niacin schizophrenia」とか「niacin alcoholism treatment」で検索すると、山ほど文献が出てきます。)
でも、公的な治療としては認められていない。
ひどい話だと思いませんか。
ビタミンで病気が治っては困る人たちがいて、彼らは、患者を真に救う治療法は認めない。もちろん背景には、抗精神病薬を売りたい、コレステロール降下薬を売りたい、っていう経済的動機がある。
これってね、患者の皆さん、怒っていいレベルの話なんですよ。
ベターチョイスがあるにもかかわらず、それを使っていないという、医療の不作為なわけだから。

そもそも医者は学校教育でナイアシンが統合失調症やアルコール依存症に効くということを教わっていない。仮に患者から集団訴訟みたいなのを起こされても、悪意による不作為ではないから医者側が負けることはないだろうけど、医者は自分の無知を恥じるべきだとは思う。ネットのあるこの時代、医者よりも患者のほうが自分の病気のことをよく調べてて、医者よりもはるかにビタミンのことに詳しいことも多い。
いい加減、医者のほうが自分で気付かないといけないと思う。自分たちの受けてきた教育は、本当に正しいのか。本当に患者のためになっているのか。
でないと、患者に置いて行かれると思う。